北海道大学農学部/農学院/農学研究院
流域砂防学研究室
Laboratory of Earth Surface Processes and Land Management
調査フィールド
研究室で現在調査・研究を行っているフィールドをご紹介します。
戸蔦別
(北海道十勝地方)
<どんな場所? どんな研究をしている?>


岩盤河床の侵食は,川を 流れる砂礫の移動や衝突,堆積によって大きく左右されます。一方,実際の河川でその地形変化を継続的に捉えた例は多くありません。
私たちが研究する戸蔦別川は,北海道の日高山脈から十勝平野へ流れる河川です。氾濫原を流れる区間には侵食されやすい軟岩が広く分布し,約10kmにわたって河床低下や蛇行の発達がみられます。流路沿いには,河床低下や河岸侵食によって形成された削剝段丘が残り,その上には,かつて河床を覆っていた硬い砂礫が見られます。
戸蔦別川では,通常は長い時間をかけて進む岩盤河川の変化を年単位で捉えることができます。いわば,岩盤河川の発達を「早送り」で観測できる研究フィールドです。
現地では,UAVや360度カメラによる観測に加え,アジア航測株式会社の協力のもと,約20kmにわたる航空レーザー測深(ALB)を毎年実施しています。これにより,水面下を含む河床地形の変化を広範囲かつ継続的に追跡しています。
この研究では,現地観測と地形計測,データ解析を組み合わせ,砂礫の移動や堆積が軟岩河川の河床低下に果たす役割を明らかにすることを目指しています。
<これまでに何が分かった?>
長期的な地形データと近年の現地観測から,河床低下のプロセスには,上流から運ばれてくる硬い砂礫による軟岩の侵食に加え,淵の形成・発達や河岸侵食が大きく関わっていることがわかってきました。研究成果については,国内外の学会で継続的に発信しています。2026年には,ニュージーランドで開催された第11回国際地形学会議と,千葉で開催された日本地球惑星科学連合大会で報告しました。
<調査時のお楽しみ!>

調査地に近い中札内村では養鶏が盛んで,道の駅ではチキンカツ丼をはじめとする鶏料理を味わうことができます。タイミングが良ければ,朝採れの新鮮な卵を購入することもできます。
また,宿泊先である帯広市内には,新鮮な野菜をふんだんに使った料理やおいしいお酒を楽しめるお店があり,調査後の夕食でよく立ち寄っています。さらに,日本では珍しいモール温泉を楽しむこともでき,その成分である亜炭(泥炭)は調査地でも各所で見ることができます。
調査地へ向かう道中では,広大な畑とその奥に日高山脈が連なる雄大な景色が広がり,こうした風景も調査の楽しみの一つとなっています。
狩勝
(北海道新得町)
<どんな場所? どんな研究をしている?>


北海道中央南部を南北に連なる日高山脈のうち,上川地方と十勝地方を分ける狩勝峠の十勝側に位置する急斜面の山地流域です。山地斜面は2~3m程度の土層の下に基岩(岩盤)が存在するのが普通ですが,この流域では基岩が露出しており,その亀裂から湧き出ている「基岩湧水」が複数存在します。北海道森林管理局のご協力のもと,この基岩湧水を継続的に観測し,湧出の特徴や降雨に対する応答を明らかにすることで,表層崩壊に対する基岩湧水の影響を明らかにすること,表層崩壊の発生を正確に予測できるモデルの開発を目指しています。
<これまでに何が分かった?>
基岩湧水の温度や水質の観測結果から,湧水は基岩のかなり深いところからきていることが分かりました。モデルを用いて降雨量から基岩湧水量をある程度再現できることや,豪雨時には表層崩壊の発生に寄与している可能性があることも分かりました。
1) 松永一慶・桂真也・吉野孝彦・松永隆正(2023):花崗岩山地小流域における基岩湧水の湧出特性とモデル化,砂防学会誌76(1):34-41. https://doi.org/10.11475/sabo.76.1_34
<調査時のお楽しみ!>

調査地の道中には,南富良野町と新得町の境である狩勝峠を通行します。昭和2年に新日本八景に選ばれており,展望台からは十勝平野を一望することができます。天気のいい日は然別湖周辺の山並みまで見えます。調査のために何度も通る場所ですが,季節や天候によって変化する景色も楽しみの一つです。
調調査の前には,占冠村のおにぎり屋さんでおにぎりやお弁当を食べて腹ごしらえし,調査の後には,占冠PAに立ち寄ってソフトクリームを食べるのがちょっとしたごほうびです。
こうした道中の景色や調査後の楽しみも,現地調査を続ける中での密かな楽しみとなっています。
野花南
(北海道芦別市)
<どんな場所? どんな研究をしている?>


2010年に地すべりが発生したため,北海道森林管理局により集水井やアンカー工などの対策工事が実施され,現在は斜面は安定しています。地すべりは地下水位の上昇によって発生するため,対策工事の計画・立案のために掘削された水位観測孔を使って,北海道森林管理局のご協力を得ながら孔内の地下水位を2016年から継続的に観測しています。冬期は最大1m程度の積雪があります。
<これまでに何が分かった?>
観測データを使って,融雪を考慮した地下水位変動解析手法を提案し,蒸発散を考慮すると地下水位の再現精度が向上することが分かりました(下記1), 2))。また,地震動により地下水位変動パターンが変化するケースがあることも分かりました(3))。このように,地すべり対策工事の設計や効果的な警戒避難に役立つ研究を行っています。
1) 溝口芽衣・桂真也(2019):融雪と蒸発散を考慮した実効雨量法による地すべり地の地下水位変動解析,日本地すべり学会誌56(1):16-24. https://doi.org/10.3313/jls.56.16
2) 松永隆正・桂真也(2021):熱収支法に基づく気象庁観測データを用いた時間融雪水量の推定と地すべり地の地下水位変動解析への適用,日本地すべり学会誌58(4):1-16. https://doi.org/10.3313/jls.58.153
3) 桂真也・松永隆正(2023):地すべり地の地下水位変動パターンが人為的な要因なしに変化した事例,日本地すべり学会誌60(3):15-22. https://doi.org/10.3313/jls.60.109
<調査時のお楽しみ!>

調査地の斜面下方をJR根室本線が通っています。2026年現在,調査で滞在する時間帯に通過する列車は,上下合わせて3本のみです。通過する列車を見ることができた時は,幸せの青い鳥を見つけたような気持ちになります(上の写真で列車がどこを走っているか分かりますか?)。